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今月24日に初日を迎える「モダン・ガールはネコを探して」。大正を舞台に、日本初の女探偵の冒険や恋や裏切りやなんだかんだを描く、劇団レトルト内閣1年ぶりの本公演です。
その脚本・演出を務める三名刺繍(本名:金澤寿美)と、今回レトルト初参加で物語のキーマンを演じる石原正一氏。この二人、なんとともに元日生まれなのです。というわけで、そんな奇縁に結ばれた二人が、元日に、初詣がてら対談。公演のこと、劇団のこと、関西小劇場のこと、たくさん語っていただきました。

石原正一(いしはら・しょういち)
昭和45年1月1日・京都生まれ。本名同じ。音楽と演劇を愛し、名物企画ユニット「石原正一ショー」を主宰。25年にわたり関西演劇界をにぎやかし続けている。元日生まれの特徴「どんなことにも物怖じしない」という性質で、南海電車でライブ帰りの忌野清志郎に公演チケットを渡しにいった武勇伝を持つ。
三名刺繍(みな・ししゅう)
昭和54年1月1日、和歌山生まれ。本名は金澤寿美(かなざわ・としみ)。劇団レトルト内閣座付脚本家として、全公演の脚本・演出を務める。元日生まれの特徴「頑固、思い込んだら譲らない」という性質で、頑固に独自の表現世界を開拓し続けている。

祝新年&お誕生日。

三名あけましておめでとうございます。
石原あけましておめでとうございます。
三名誕生日おめでとうございます。
石原誕生日おめでとうございます(笑)。
三名お名前の「正一」はやっぱり、元日生まれから来てるんですか?
石原はい。
三名私もです。本名が「寿美(としみ)」なんですが、これはめでたい、という、わかりやすい名前。
石原予定日通りでしたか。
三名はい。
石原僕は予定日は12月の2週目くらいだったそうなんですよ。母親は、まだかな、まだかな・・と年末を過ごして、紅白を見ているときに産気づいたらしくて。元日の10時45分に生まれたそうです。だから本当に「元旦」生まれ。混同されがちですけど、「元旦」は元日の午前中を指すんですよ。
三名私は難産で、母は長いこと寝込んだ末に元日の夜ようやく、という出産だったそうです。
石原よくお生まれになった(笑)。
三名お正月だから、忘れられたりしません?
石原むしろ覚えてくれるみたいで、年賀状でも誕生日を祝ってくれたりしますよ。
三名私は忘れられがちですね・・。誕生日ケーキも、おせちでごまかされてます。
石原うちはむしろ母親がはりきります。大晦日にケーキを買っておいて。元日に祝ってくれたりしました。僕は1970年生まれなので、勝手に、「万博の年は俺から始まった」と言ってました(笑)。
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二〇一九年、どうでしたか?

三名大きなできごととしては、本を出したんですよ。経営コンサルタントの山本健児先生と、甲南大学の長坂悦敬教授と。「アート引越センター 顧客満足度連続No.1のヒミツ」という、ビジネス書なんですけど。
石原へえ。僕も引っ越しはアートでしたよ。確かにサービスはめちゃくちゃ良かった。ただ高かったですけどね(笑)。
三名アートのすごいところは、価格で勝負しないところなんですよ。だから入札では勝てないけど、別の勝負ポイントがある。引っ越し業自体もアートが始めたんだそうです。もともと運送業をやっていて、雨の日に濡れながら引っ越ししている家族を見て、土日なら運送の車も空いているし、と思ったのが最初だと。
石原へえ。ウーバーイーツが職業になる時代ですもんね。買い出しみたいなことが。
三名そう思うと、演劇も!
石原わりと昔からずっとありますもんね。生でやる舞台演劇、というものは。やっぱり力があるんだなと思いますよ。
三名去年レトルト内閣とは別に、劇団くれおーるを立ち上げたんですよ。たこ焼きで有名な外食産業のくれおーるが、「夢を追う若者を応援したい」というのと、「自社の人材不足の解消」を目的に、「じゃあアルバイトの子たちで劇団を創ろう」という事業を始められて。
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石原正一ショーについて。

三名石原さんといえば、関西小劇場の風物詩・石原正一ショーの主宰。関西小劇場を引っ張ってきた、憧れの世代の代表のような方でもあるので、色々聞いてみたいです。まず、自分の名前つけるのって、勇気いりませんか?
石原うーん。後輩がきっかけなんです。後輩が自分の名前を冠にプロデュースをして、「僕がやったんだから」とふっかけてきた。なんだと、じゃあ俺も、と。旗揚げはカラビンカで、1995年でした。正直、名前を冠したほうが宣伝になるな、というのは感じますよね。
三名なるほど。でも、なかなか思い切れない(笑)。
石原僕らの世代なら、加藤健一事務所とかも憧れだった。公演情報が情報誌とかに載るとき、五十音順で乗るから、だいたい僕の後ろが「維新派」「イッセー尾形」だった(笑)。「エド・サリヴァン・ショー」にも影響を受けましたね。エド・サリヴァンというホストが自分がいいと思ったゲストを招く音楽番組でした。同じように、自分がいいと思う人を招いて上演できる団体にできたら、という思いはあります。
三名これまで出られた方で、印象的な方とかおられます?
石原たくさんいますが、例えばsundayの平林之英くん。
三名平林さん、私もすごく好きです。
石原いい芝居しますよね。
三名ウォーリー木下さんの作品が好きで。
石原遊気舎の役者さんや、千田訓子さんなど、いろんな出会いだったり、公演を見に行ったりで、好きだな、と思った人に声をかけました。せりふ回しが上手だなとか、華があるなあとか、面白いなあ、とか。可愛いのに振り切ったギャグをする人とか、魅力を感じますよね。
三名ギャップですね。プロデュース公演は大変じゃないですか?
石原たしかに当時、制作・脚本演出・稽古場の確保・スケジュール管理、全部自分でやっていたので、大変ではありました。パソコンもスマホもない時代でしたから。やりとりは電話、スケジュールは紙で回収、台本は仕事の合間にノートに書いてました。
三名大変・・努力家でもいらっしゃる。
石原努力というか、やりたかったんでしょうね。アニメ、漫画みたいな世界を、技術のある役者とスタッフで演劇という箱にいれてやりたかった。何も考えず楽しい、という舞台を創りたかった。「詳しくは覚えてないけどなんか楽しかった」というお客さんのコメントが多かったのはうれしかったですね。
三名今の時代に合っているかも。
石原どうなんやろう。今はかえって劇団のほうが有効じゃないかな。自分たちの色とか作風を確立してやっていこうとしている人たちのほうが、SNSの時代は評価されるんじゃないかな。レトルト内閣さんも、僕から見たら、作風の個性を保ちつつ、劇団員が出演して、客演のキャストで脇を固めて。理想的じゃないかなと思います。
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劇団レトルト内閣について。

三名なんだかんだで、今年で旗揚げから20年なんですよ。私たちはもともと関西学院大学の演劇グループSomethingが母体なんです。すぐ上の先輩に劇団鹿殺しがいたり、後輩に突劇金魚のサリngROCKがいたり。
石原貴重!演劇界を今もひっぱってる人材が。
三名在学中に旗揚げしたんですけど、当時はわりと関西のいろんな大学で中心的だった人たちに声をかけて。関西大学の学園座の部長をやっていた奥野や、神戸大学の自由劇場の座長だったこみたおなど。活動している同世代劇団も減りつつあるので、勝手に仲間意識はあるかもしれないです。ステージタイガーや、かのうとおっさん、A級MissingLinkも同い年です。ミジンコターボや、GiantGrammyも同世代でした。
石原隕石少年トースターも含めて、インディペンデントシアターを拠点に精力的にやってましたね。
三名客演をあまり呼ばない期間が長かったんですが、最近は逆で。
石原レトルト内閣は孤高の劇団だ!というイメージがあった。わが道を行く、というか。これまでで印象的な客演の俳優とかいます?
三名悪い芝居の山崎彬さんや、リリパットアーミーIIのうえだひろしさんは印象的でした。ご一緒して、演技がすごく好きだな、というのはもちろんですが、作品の作り方にも幅が広がるな、という発見がありました。もし、レトルト内閣の作風に合いそうだな、という人がいたら、ぜひ教えてほしいです(笑)。
石原うーん。劇団員の比率で言えば、男性の俳優さんのほうが少ないんかな。今回の出演者では、川内君と、田頭君だけ?
三名はい。今回は出ていないけれど、よしもとともしよという看板俳優と、こみたおというサラリーマン俳優もいるのですけれど。こみたおは毎年、ABC春の文化祭でサラリーマン講座をやっていて、春の文化祭の名物企画になってます(笑)。女優では、副座長の藤京子というのもいます。子育て中ですが、福田と安定志向というコンビを組んで、M-1には毎年出てるみたいです。
石原レトルト内閣に出るんです、と人に言うと、「音楽と演劇どっちの企画?」と聞かれたりします。それが二本柱なんですね。
三名柱、というほど絞れていませんが(笑)。最近は生バンド演奏での作品が続いていたり、劇作のうえで音楽は重視していますね。自分もキーボードをやっていて、バンドを組んでたりもしたし、作曲もしています。
石原多才ですね!それなら本当に平林くんは合いそうだな。楽器もできるし、譜面も読めるし、作曲もできる。本当に多才で器用な人です。僕はギターが少し弾けるくらい。今回のキャストでは、先輩では久野ちゃん(久野麻子さん)も出てるけど、すごく合ってる感じがしますよ。久野ちゃんは本当に芸達者。ああいう先輩も出演することで、ブレンドがうまくいっている感じがします。
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こんな人に出てほしい。

三名久野さんは前回も出てもらったんです。ほんとにお世話になりました・・。
石原あとは、例えば芸人さんや、よしもとでやっているような人とかも面白いかも。
三名ザ・プラン9の久馬さんに仲良くしていただいてる関係から、川内と福田が月刊コントに出させていただいたり、佐藤がプラン9芝居座に呼んでいただいたり、という接点はありますね。お笑いの方は本当にアプローチが独特で面白いですよね。
石原それにきちっと芝居もしはりますしね。東京からキャストを呼んだりは?
三名昔、デス電所の丸山英彦さんに出てもらったりもしました。大阪にいらっしゃった時代からお呼びしていたんですが、デス電所が好きで。
石原丸山君はいいよねえ。坂口修一さんとかは?
三名出てもらいました。「オフィス座の怪人」という、オペラ座の怪人をもじったことが丸わかりな作品だったんですが、怪人役してもらって、面白かったですね。佐々木ヤス子さんもよく出てくれました。
石原彼女もすごく器用だし面白いよね。大塚宣幸君とかも、めちゃくちゃ面白い役者さんだし、ムードメーカーでもある人ですよ。
三名同世代でまだご縁をいただいていない、河口仁さんや、是常祐美さんなどもいつもご一緒できないかと、話題に上がるんです。
石原京都にも面白い俳優さんたくさんいてはりますよ。劇団衛星の黒木陽子さんや紙本明子さん。岡嶋秀昭さんも。めちゃくちゃ面白いです。
三名京都だったら、ダンサーさんですが、きたまりさんにも昔出てもらったり。今回もコンテンポラリーが得意なネコザゴーストさんに出演と振付もお願いしていますが、違うジャンルの方を呼ぶのはやはり面白いです。
石原ネコさん、ステージタイガーでお芝居もやってた方だから、もっとプロレス的なエンタメが好きな方なのかと思ったんですよ。それが、あんなにアーティストというか、コンテンポラリーができる方とは。しかも、振付にちゃんと全部理由あって、毎回稽古がすごく面白い。
三名ダンサーさんとご一緒するのは楽しいです。N-Trance Fishさんともいつかご一緒したいなと。
石原尾沢奈津子先生が出演されたりしたら、面白いでしょうね。
三名ぜひ出てほしいです。もう、チームのみなさんで。
石原あの方は厳しいですよ~(笑)。あとは川下大洋さんも素敵ですよ。
三名一回お声がけしたんですけど、スケジュールが合わなくて。
石原ああ・・。僕も今回のモガネコ、ほんとはもっと前の日程で企画されてたときに声かけてもらって。その時はスケジュールが無理で、すごく残念だったんですよ。それで、奇跡的に公演の日程が後倒しになって、また声をかけていただいた。嬉しかったですよ、本当にご縁があるなと。覚えててくれたのもうれしいですし。
三名先輩方とも、若い人ともやりたいなと思ってるんです。でも、最近の若い人と本当に接点がなくて、存じなくて。
石原ご一緒した方だと、樋口みどりこちゃんは面白いですよ。お姫さまみたいな役はもちろん、男まさりの役も、ボケもできて、若いのにほんとに器用。歌もダンスも、殺陣もできる。もっといろんな舞台に出るべき人だ、と思いましたね。あとは、去年の年末の石原正一ショーに出てもらったラニーノーズの洲崎さんもすごくよかった。歌ネタ王でチャンピオンになったけど、また出てほしいなあ。
三名音楽ができる俳優さんは勘がいい人が多いですよね。「まことに神の造りしをんな」いう作品で、山浦徹さんにも出てもらいました。
石原ギターめちゃくちゃうまいですよあの人は。あとは、そうだな、いっそスポーツ選手に出てもらったりは?
三名スポーツ、これからすごく注目が集まるジャンルだと思う。2.5次元の舞台も、身体能力を見せる部分が大きいですもんね。
石原壱劇屋の方もすごくみんな達者ですよね。
三名壱劇屋の丸山真輝さんにも、この夏和歌山でやった公演に出てもらったんです。私は和歌山出身なんですけど、祖父がマジシャンで、戦時中の和歌山で活動をしていて。祖父の話を和歌山で上演したいなと、「きのくにプロジェクト」というのを立ち上げて、和歌山にゆかりのある演劇人を集めて。
石原だったら、楠見薫さんにぜひ。
三名楠見さんに渋谷天外さんは、和歌山を代表する演劇人ですから、真っ先に話題に上がりましたが…(笑)
石原楠見さんの弟さんのクスミヒデオさんもいいですよ。赤犬という大阪の名物バンドをやっている。ぎらぎらしたいい芝居しはるんですよ。それで笑いもできる。
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スタッフさんとの出会い。

石原いろんなスタッフさんにやってもらいましたけどねえ。音響ですごく影響を受けたのは、M.O.Pでずっと音響をやってた堂岡俊弘さん。マキノノゾミの作品の選曲を、マキノさん以外の人がやってるんだというのがそもそも衝撃だった。つかイズムを継承してるというか、すごい選曲だった。「ハッピーマンシリーズ」という幕末もの3部作で、新選組と幕末の志士が戦うクライマックスで、グループサウンズをかける。あの時君は若かった、3分くらいの曲をループで15分くらい。それがめちゃくちゃ良かった。影響うけましたね。
三名私はキューブリックの音楽の使い方が好きなんです。「フルメタル・ジャケット」では、戦争へ行くシーンでミッキーマウスマーチをかけたり。
石原スコセッシとか、今ならタランティーノ作品も。見たらいつも、「ずるい、それ俺が考えてたやつや」と思う。オリジナルじゃなくて、既成のあの曲をここで使うか!という。
三名「さらばアイドル、君の放つ光線ゆえに」という作品では、小柳ルミ子の「お久しぶりね」の中でアイドルが殺し合うシーンを創りました。最近は、即興音楽が得意なミュージシャンにバンドで入ってもらうことが多くて。そこからクラブジャズにもはまりました。一昨年亡くなりましたが、阿木譲さんという音楽評論家がアンダーグラウンドで前衛音楽や前衛アートを扱うクラブをされていて。彼には大きな影響を受けました。
石原モガネコの選曲は、坂本龍一っぽいというか、YMOっぽいなと思ってましたよ。
三名打ち込み系が好きなんですよ。一転してボサノバにはまる時期とかもあるんですけど。
石原全然違うやん(笑)。でも自分もそうですね、全曲毎回違います。前回はBABYMETALと筋肉少女帯を使いました。選曲できる芝居は楽しいですよね。
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モダン・ガールはネコを探して

三名最近ずっと生バンドのオリジナル曲でやっていたので、選曲が久々で。
石原僕は初レトルトなんですけど、ほんとに稽古は楽しいしクリエイティブ。劇団員のみなさん、しっかりしてますよね。若い子もそうだし、座長の川内君が目配りしてて。三名さんは演出として譲れないラインがはっきりあって、頑固。これは元日生まれの特徴ですよ(笑)。客演陣のキャスティングもうまいし、なかなかの作品やなと思います。日本初の女探偵というプロットからおもしろい。スタイリッシュさを前面に出してる劇団って、むしろあんまりないですよね。宣伝美術のパッケージもしっかりしてて、ヘップホールに映えそうというか。実際チラシ配っててもすごい受けがいいですよ。ネコさんががんばってくれて、パフォーマンスもどんどん上がっていきそうだし。
三名正一さん、演技が優しいですよね。相手を生かすというか。絡んでいる俳優が楽しそうです。
石原そうですかね。そういう先輩を見てきたのはあるかも。生瀬さんを立てる山西さんとか。
三名私にとっては、探偵ものって癒しなんですよ。ほんとに疲れたときに読んだら癒されたり、苦しいときに助けてもらったり。2019年のお正月はフィリップ・マーロウをずっと読んでたんです。そこから、自分もやってみたいな、と。
石原ぼくはてっきりおしりたんていがきっかけかと思いました。
三名(笑)
石原いや、だまされたと思って、一回見てほしい。楽しいんですよ。ちなみにおしりたんていの声の人はキャプテン翼の翼君です。
三名見てみたいです・・(笑)。探偵ものって、食い入るようにページを繰らせる力があると思うんです。逆に何も考えなくても楽しめるというか。そんな風に、気軽に楽しんでもらえたらなと思います。いつものレトルトより軽快に観劇してもらえるんじゃないかな
石原2020年の芝居はじめにはぴったりだと思いますよ。目にも楽しいし、心にも残る。なんせ、福田さん扮する主人公がいっぱい調べますから(笑)。
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